君が涙を忘れる日まで。
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「樋口って結構乙女だよな」
「最初の感想がそれ?」
「だって、こういう時なんて言うのが正解なのかわかんねぇし」
八駅目を通過したところで両手で吊革に掴まり、外を見ながらゆらゆらと左右に揺れている幸野君。
確かに、今が修司と番号を交換した日の翌日だったりしたら、何かしらアドバイスしたり相談に乗ったりできるけど、そうじゃないし。
「まぁそうだよね。いきなり人の恋愛話聞かされても困るよね」
「別に困りはしないし聞きたいと思うけどさ、今時の女子高生ってもっと恋愛に慣れてるのかと思ってた」
今時って、幸野君だって今時の男子高校生なのに、なんかオヤジみたいな発言。
「漫画やドラマ見てキュンキュンしたり妄想するのは簡単だけど、実際はそう簡単にはいかないんだよ」
「へぇー、そういうもんなんだ」
遠くにスカイツリーがチラッと見えることに気付いたのは、いつだったっけ。
一人で電車に乗って、ボーっと外を眺めていた時だった。
あっという間に過ぎてしまうはずの通学電車が、永遠かのように長く感じられた時。
「で、これからどうすんの?」
「次で降りる」
「だろうな」
駅に到着し、すぐ近くにある階段の上で一度立ちどまって振り返ると、プシュッという音を鳴らしてドアが閉まった。
そのドアの斜め上にある『3』の文字を見つめると……胸が痛む。
「行こう」
「ああ」