君が涙を忘れる日まで。
幸野君には悪いけど、これで良かったんだと改めて思えた。

こうなりたいとどこかで願っていたし、気持も楽になった。


「なぁ樋口」

「ん?」



「おまえさ……なんで泣いてんの?」


思いもよらない言葉に不意をつかれた私は、確認するかのように目尻にそっと触れてみるけど、涙なんか出てない。


「変なこと言わないでよ」


「さっきからさ、樋口は笑ってるつもりかもしんないけど、全然笑ってるように見えないから。寧ろ泣いてるようにしか見えない」


なんで。せっかく全部終わったのに、もう苦しまなくて済むと思ったのに。


「俺はなんせお調子者だし、信用できないかもしれないけどさ。これも何かの縁だと思って、その泣き顔の理由を聞かせてくれないかな」


「幸野君……」


「こんな俺だけど、吐き出せば少しは変わるかもよ?」



幸野君のことはあまり知らないけれど、その柔らかい笑顔だけできっと優しい人なんだろうなって思える。

〝彼〟からも、何度か幸野君の話しは聞いていたから、余計に。



さっきまでは、全てが終わったのだと思っていた。

でも本当は何も終わってなんかないのかもしれない。

こんなに簡単に終わらせてくれるほど、神様は優しくないってことなんだ。


だから私は今、ここにいる。



「私ね、全部時間が解決してくれると思ってたの。でもその時間っていったいどれくらいなんだろうね。半年一年、それ以上……」


ふと顔を上げると、いつの間にか東の空は明るく青みがかっていて、雲がゆっくりと流れている。


「ねぇ幸野君、お願いがあるんだけど」

「なんだよ。悪いけど今金欠だからな」

「フフッ、そうじゃなくて。付き合ってほしいの」

「どこに?」


「最後のさよならをする旅……かな」



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