君が涙を忘れる日まで。
 
 *

「いらっしゃいませ」


ピンクのエプロンをかけた私が、席に座ったお客さんに注文を取りに行く。

アユミがどうしてもこれがいいと言って決まったピンクのエプロン。

最初はものすごく抵抗があったけど、着ちゃえば案外可愛いかもって思えてきた。


教室の中は甘い香りやカレーのスパイシーな香り、ポンポンとポップコーンが弾ける音に包まれている。



「だいぶ落ち着いてきたから、交代しよ。奈々と修司も色々回ってきなよ」

十二時半を回った頃、教室に戻ってきたアユミがそう言ってエプロンを首からかけた。


「じゃー行ってこようかな。アユミ何が良かった?」

「三年生の女装メイド喫茶がマジやばかったよ!あと二年のパンケーキ屋がかなり本格的だった」

女装メイド喫茶か、確かに面白そう。



「タクヤ、みんな、後頼むな。また戻ってくるから。奈々行こう」


振り返って、あたり前のように私の名前を呼んだ修司。

修司の隣に並ぶことがとても自然で、本当の意味でここが私の居場所になればいいのにって……そう思った。


「うん、行こう」

「どこ行く?」

「私、最初に行きたいところがあるんだけど」

「いいよ、どこ?」

パンケーキもきっと凄く美味しだろうし食べてみたい。でも、やっぱり私は……。


「一組の、ホットドッグ」

「そう言うと思った。よし、行こう」


ホットドッグ屋は校庭でやっている為、私達は靴に履き替えて校庭に出た。

午前中よりは少なくなった気がするけど、それでも人の数は多い。


校庭にはステージも設置されていて、今は丁度軽音部のライブが行われているようで、歌声や歓声が響いている。


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