君が涙を忘れる日まで。
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商店街を引き返し学校に向かいながら、幸野君は私の話しに一度も口を挟まず聞いていた。
すっかり日は昇っているいるけれど、それでもまだ人の姿はまばらだ。それに、いつもより静かな気がする。
「で、結局文化祭は大成功?」
「二日目もすごい売れたし、用意していたポップコーンはほぼ完売だったよ」
中でもハチミツバター味が一番売れて、ハチミツが足りなくなって慌てて買いに行くくらいだった。
「ていうかさ、俺の話題出てたんだな」
「そうそう、話してたら思い出したの。修司が幸野君の話しをしてた内容を」
「なんだよそれ、忘れてたなんてひでーな。脇役どころか、これじゃ通行人A止まりだな」
「ごめんごめん」
ラッキーロードを通るだけで、文化祭の出来事が今でも鮮明に浮かび上がってくる。
買い物して、笑い合って、思えばこの時がピークだったのかもしれない。
「これまでの話しを客観的に考えるとさ、今のところ上手くいくイメージしか湧かないんだけど」
手を頭のうしろに組みながら、空を仰いで幸野君が言った。
「ここまではね……。楽しかったよ、ほんと」
「で?幼馴染には言ったのかよ」
そう、それがいけなかったんだ。
橋を渡って門の前に立つと、ガランとした校庭が目の前に広がっている。校舎にある時計は七時半を指していた。
「ていうかさ、よく考えたら……今日って日曜じゃね?」
「……あっ」
そっか、だから学校に人の気配がなくて、朝の街もいつもより静かだったんだ。
「なぁ、さっきから気になってたんだけど、それなに?」
幸野君がさした指の方向をたどると、私のブレザーのポケットから水色の何かが見えていた。
「ああ、これはね……」
いつの間にこんな所に入ってたんだろう。まぁそんなのどうでもいい。
私はポケットから見えている物を取り出した。
「それって、手袋?」
「うん……一応手袋、かな」
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