君が涙を忘れる日まで。


  *****


商店街を引き返し学校に向かいながら、幸野君は私の話しに一度も口を挟まず聞いていた。

すっかり日は昇っているいるけれど、それでもまだ人の姿はまばらだ。それに、いつもより静かな気がする。


「で、結局文化祭は大成功?」

「二日目もすごい売れたし、用意していたポップコーンはほぼ完売だったよ」

中でもハチミツバター味が一番売れて、ハチミツが足りなくなって慌てて買いに行くくらいだった。

「ていうかさ、俺の話題出てたんだな」

「そうそう、話してたら思い出したの。修司が幸野君の話しをしてた内容を」

「なんだよそれ、忘れてたなんてひでーな。脇役どころか、これじゃ通行人A止まりだな」

「ごめんごめん」


ラッキーロードを通るだけで、文化祭の出来事が今でも鮮明に浮かび上がってくる。

買い物して、笑い合って、思えばこの時がピークだったのかもしれない。


「これまでの話しを客観的に考えるとさ、今のところ上手くいくイメージしか湧かないんだけど」

手を頭のうしろに組みながら、空を仰いで幸野君が言った。

「ここまではね……。楽しかったよ、ほんと」


「で?幼馴染には言ったのかよ」

そう、それがいけなかったんだ。


橋を渡って門の前に立つと、ガランとした校庭が目の前に広がっている。校舎にある時計は七時半を指していた。


「ていうかさ、よく考えたら……今日って日曜じゃね?」

「……あっ」

そっか、だから学校に人の気配がなくて、朝の街もいつもより静かだったんだ。


「なぁ、さっきから気になってたんだけど、それなに?」

幸野君がさした指の方向をたどると、私のブレザーのポケットから水色の何かが見えていた。

「ああ、これはね……」


いつの間にこんな所に入ってたんだろう。まぁそんなのどうでもいい。

私はポケットから見えている物を取り出した。


「それって、手袋?」

「うん……一応手袋、かな」





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