君が涙を忘れる日まで。
行く当てもなくただ足の向くままに歩いていたつもりだったのに、気付けば駅まで来ていた。


高架下にある店舗は全て閉まっていて、いつもは沢山の人々が慌ただしく行き交うはずの駅前は閑散としている。


カラスの鳴く声や木々の揺れる音までよく聞こえてきて、まるで日本が滅亡する映画の冒頭シーンのようだった。


「さよならする旅か、なんか響きがかっこいいな」


能天気にそう言って、頭のうしろで手を組みながら口笛を吹く幸野君。

ハッキリしない掠れた音、下手くそな口笛が私の心を少しだけ和ませる。


「終電なら乗ったことあるけど、始発は初めてかも」

「私もだよ」

「なんつーか、終電より始発の方が酔っ払いのおっさんもいないし静かなんだな」

「うん、静かだね」


人の姿が殆どないからか、先の方まで見渡せるホームがとても不思議で、どこかの田舎町にある小さな駅にいるような感覚だった。


始発電車が来るまでの間、ホームにある青いベンチに腰掛けた。

なんとなく隣に座るのが恥ずかしくて、二人の間にある空白のベンチが私達の距離を物語っているようだ。



「私のことは?」

「ん?」

「私の印象も聞かせてよ」


浅く座り自分の足に腕を乗せた幸野君が、前屈みになって「うーん」と小さく唸る。

そんなに考えなきゃいけないほど印象にないのかな。



「バスケがすげー上手くて、毎日楽しそうにしてて、明るかった……って感じ」

「明るかった。過去形だね」

「おう、過去形だ」


そんな笑顔でハッキリ言われたら、否定する気にもなれない。

実際その通りだし、喋ったことがない幸野君にまで気づかれてしまうほどだったんだろうな。


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