君が涙を忘れる日まで。
それから香乃がやって来たのは、二十時五分頃だった。やっぱり予想は当たってた。


「今日めっちゃ寒いよ。雪降るんじゃない?ってくらい。やだなー寒いの」

「これからもっともっと寒くなるんだから、今そんなこと言ってたらもたないよ」


香乃は手に持っている紙袋を置いて、いつものようにベッドに腰掛けた。


勉強机とベッドに占領された狭い部屋では、座れるところはベッドしかない。

建て直した香乃の部屋はめっちゃ広かったなー。羨ましい。



「でさ、最初に奈々に見て欲しいんだ」


そう言ってガサゴソと袋の中に手を入れた。


私が編んだ手袋は、枕の下に隠してある。


香乃は私が編んでいたことを知らないから、香乃の話しを聞いた後に驚かせる作戦だ。



「これなんだけど……」


そっと取り出した手袋は、黒をベースにしてあって、手首の所に青いラインが入っている。

まるで売っている物かと思うくらい、とても上手だった。



「凄い……凄いよ香乃!」

「ほんと?網目が綺麗に揃わなくて、実は何度もやり直したんだ」

「手作りだとは思えない!マジでこのまま売れるくらい上手だよ」


香乃は照れたように目を細め、嬉しそうに笑った。


「奈々に褒められると嬉しい。でも売らないよ。だってこれは……」


分かってるよ。それは香乃の好きな人にあげる、大切な物なんだもんね。


恥かしそうに俯く香乃はとても可愛くて、でも中学の時に先輩を好きだと言っていた時の表情とは全然違う。

可愛いけど、なんだか少し大人っぽくて、香乃の表情だけで本当にその人のことが好きなんだって伝わってきた。



「私ね……」


「うん」







< 43 / 130 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop