君が涙を忘れる日まで。
そんな風に見ないで欲しい。哀れんだような目で見られたら、泣きたくなってしまうから。

幸野君の視線から逃れるように、私は堪らず俯いた。



「本当は、どっかで気付いてたんじゃないの?」


「……え?」


「樋口はさ、大切な幼馴染の気持に気付かないほど鈍感なの?違うよね?本当は少しずつ気付いてて、でも気付かないようにしてたんじゃない?」



なんで……どうして幸野君がそんなこと言うの?


まともに喋ったのは今日が初めてなのに、どうして……。



「浅木の気持に気付いて、それが心のどこかにずっとあったから、だから樋口は浅木に自分の気持をずっと言えなかったんじゃないのか?」



「私……」


何も知らない、考えない。そうやってずっと誤魔化していた。


香乃に修司のことが好きだと言えなかったのは、自分が本気で恋をしたのは初めてで、だから戸惑っているだけなんだって、そう思い込むようにしてた。



「俺にまで誤魔化す必要ないよ。本音を言っていいんだ。だって、全部吐き出すんだろ?」



あの頃感じていた気持ちがまた甦ってきて、いつの間にか涙がぽろぽろと零れてきた。


ずっとずっと、押し殺してきたんだ。


大好きな香乃の気持に、気付かないはずない。


だって、私と香乃は……。




「わ……私、気付いちゃったから……」


こみ上げてくる涙が邪魔して上手く言葉に出来ないけれど、幸野君がそんな私の肩に優しくそっと手を置いた。


「もしかしたら香乃は修司を好きなんじゃないかって、気付いてた。だから……だからずっと言えなかったんだ。
私が修司を好きだって言ったら、香乃は困るんじゃないか、悩むんじゃないか、苦しめるんじゃないかって……そう……思ったから」



止められない涙が頬を伝い続ける。今更どうにもならない、冷たくて虚しい涙。


香乃を苦しめたくなかったし、自分も苦しみたくなかった。だから祈った。


あの日、香乃が教えてくれる名前が……どうか、修司ではありませんようにって。


必死に願ったんだ……。



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