君が涙を忘れる日まで。
「樋口は、浅木の気持に気付いた。だから中々言い出せなかったんだろ?」

幸野君が差し出してくれたハンカチを受け取り、静かに頷いた。


香乃は修司が好きなわけじゃない、香乃も私になにも言ってこないんだから、絶対にそれはない。ずっとそうやって言い聞かせてた。



「どうしてなんだろう……昔は素直になんでも言えたのに。今はさ、これを言ったら傷つけるかもしれないとか、私達の仲が気まずくなるかもしれないとか、そんなことばかり考えるようになっちゃったんだ……」


「だって、浅木のこと好きなんだろ?大切なんだろ?だったらさ」


「もうきっと、子供の頃とは違うんだよ。今更何を思ったって遅い。だから私は、さよならをするって決めたんだ」



何度も考えた。もしもすぐに香乃に話していたら、香乃より先に修司のことを伝えていたら、って。


でも……そういうことじゃなかったんだ。



「人を好きになるって、こんなに辛いんだね……」

「樋口……」



再び歩き出した私は、すぐ側にあった教室のゴミ箱に、渡せなかった……行き場を無くした手袋を、そっと入れた。

ほんと、不格好で下手くそな手袋だった。


「待てよ、樋口」


スタスタと歩き出した私のうしろから、追いかけてくる幸野君の足音が、静かな廊下に響き渡る。



「あのね、幸野君。この話にはまだ続きがあるの」



そう、これで終わりなんかじゃない……。





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