君が涙を忘れる日まで。
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香乃は修司を好きになってから、修司と仲の良い私に打ち明けることが出来なかったと言った。
それに、私に打ち明けて修司との仲を取り持ってもらうのは一番の近道だけど、そうじゃなくて自分で頑張りたかったと。
自分で番号を聞いて、自分から話しかけて、そうやって徐々に距離を縮めたかった。
自分の気持に気付いてもらうための努力もしたらしい。
そんなことをしていたなんて、ちっとも知らなかった。私だって言わなかったんだから、お互いさまだけど。
昔は好きな人と喋ることもできずに、私が間に入ってあげるのがあたり前だった。
恥かしがりやで内気な香乃が、いつの間にか私より大人になっていて、私の力がなくても自分で頑張るようになっていた。
私は……。香乃が頑張っている間、クラスメイトで部活も一緒だということに安心して、私はなにもしてこなかった。
修司の為にと動いた文化祭、それも今思えばただの自己満足だったのかもしれない。
香乃の気持に気付いていたのに、私は現実から目を逸らし続けていた。
『香乃の好きな人が、どうか修司ではありませんように』と、ただ神頼みをするだけ。
もっと早く香乃に打ち明けていたら、なにか変わってたんだろうか。
ベッドに寝転び、下手くそな手編みの手袋を眺めた。
渡さなくて……渡せなくてよかった。こんなのもらったって、修司を困らせるだけだったし。
これでよかったんだ。私が香乃に話していたら、香乃はきっと自分の気持を隠してしまっていたから。そういう子だから。
香乃が泣くくらいなら、私が泣いた方がマシだ。私は強いから、香乃よりずっと強い。
きっと時間が解決してくれる。
手袋を無造作に放り投げ、目を瞑って両腕で顔を覆っていると、下からお母さんの声が聞こえてきた。
「奈々~、降りておいで」