君が涙を忘れる日まで。
リビングに行くと、珍しく早く帰って来たお父さんが既に食卓に座っていた。

誕生日や記念日など、特別な日には必ず仕事を終わらせて帰ってくるお父さん。


子供の頃はそれが嬉しかったけど、今は少しだけうざいと感じてしまう。

もう子供じゃないのに、サンタさんがプレゼントをくれるとウキウキしていたあの頃の気持ちは、もうない。


テーブルの上にはサラダとグラタン、そして定番のチキンが並べられている。


「奈々も座って、食べましょう」


お母さんは楽しそうに鼻歌を歌いながら、冷蔵庫から取り出したケーキを食卓の真ん中に置いた。


ケーキなんか、いらないのに……。


「さぁ、食べましょう。ケーキは食後だからね」


そんなの分かってる。別に今すぐ食べたいとか言って浮かれる年齢じゃないんだから。


毎年食べているクリスマス定番のメニュー、それなのに……味が違うように感じた。



「でも寂しいわね、やっぱり香乃ちゃんがいないと」


ピクッと体が反応し、サラダを取ろうとしていた手を引っこめた。


「毎年一緒だったのにな」


お父さんまでそう言って、両親が勝手に話しを進める。


「今年は無理なんだから仕方ないじゃん」


クリスマスには香乃が必ず家に来て、一緒にパーティーをしていた。

子供の頃からずっと、お母さんの美味しい手料理を食べて、満腹なはずなのにケーキはいくらでも食べられて。

食事が終わったら二人でプレゼント交換をする……。


涙が出そうになり、一気にチキンを口に入れた。



「もしかして、彼氏でもできたのかしら?」



ーーバンッ!!


私は勢いよくテーブルに手を乗せ、立ち上がった。


「奈々?」

「そういうんじゃないから……。ごちそうさま」



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