君が涙を忘れる日まで。
翌朝、寝坊したから先にいくようにと香乃にLINEを送った。

こんな状況で、三人一緒に楽しく電車に乗っている姿なんて想像できない。上手く笑える自信だってない。


一人で家を出て駅に向かった私は、いつもより一本遅い電車に乗り込んだ。


二人は当然乗っていなくて、ただ黙ってひとり窓の外を見つめている時間は、思った以上に長く感じられた。



あそこに教会なんてあったんだ。

視線の先には、三角屋根の上にある十字架。

凄く遠いけど、スカイツリーもチラッと見える。


知らなかった景色、見ていなかった空。


私の視線はいつも、彼にしか向けられていなかったから。



ボーっとしていると、紺色のブレザーのポケットに入れているスマホが一瞬震えた気がして見てみると、修司からのLINEが入っていた。


[終業式に遅刻すんなよー]


遅刻なんかしない。一本遅らせたってじゅうぶん間に合うことは分かってる。


それに、ひとりなら早く歩ける。誰かにペースを合わせることも、前を行く修司の背中を眺めることもないんだから。


そんなことよりも、修司は昨日香乃から手袋を受け取ったの?どう思った?嬉しかった?

ただの気の合う仲の良い友達だったなら、そんな風に簡単に聞けるのに。


私が修司を好きになってしまったから……。


時間を戻すことが出来るなら、私はきっと三両目には乗らない。毎朝同じ車両に乗る前に、戻れたら……。



なんて無理なことを願うよりも、いつも通り普通に振る舞おう。香乃も修司も、誰も悪くないんだから。



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