君が涙を忘れる日まで。
学校に着くと、勝手に心臓がドクンドクンと警報を鳴らし始めた。

普通にしたいのに、その音は教室に近づくにつれて大きくなっていく。


終業式なんか、すぐに終わる。そしたら明日から冬休みなんだ。

部活はあるけどバスケをしている時だけは、周りを見ずに集中できるから。



ドアの前で深呼吸をして教室の中に入ると、すぐに修司の席がある。

廊下側から二列目の、うしろから二番目。私の席は、その列の一番前だ。

席替えをしても尚、修司のうしろにいけなかったことに落ち込んだけど、今はホッとしている。


「奈々、おはよう」


私を呼ぶアユミの声に気付き、修司が振り返った。


いつもと同じ修司の顔なのに、心臓の警報は激しさを増す。

ドキドキと痛む胸に手を置き、自分の席に向かった。



「おはよ、奈々。間に合ったな」

「うん、おはよう」


目は見れないけれど、精一杯笑ったつもりだ。



だけど俯いていた私の視線の先に、ある物が映った瞬間……激しい痛みが私の心を襲う。


それでも私は懸命に笑顔を装って、自分の席に着いた。


手が震えて、鼻の奥がツーンと痛む。



修司の机の横に掛けられている鞄からは……、黒い手袋がはみ出していた。



あれは、香乃が昨日あげた物に間違いない。

昨日の今日で、すぐに使ったんだ。


一生懸命編んだ香乃の手袋なんだから、使ってもらえたら嬉しいに決まってる。


香乃が笑ってたら、私も嬉しいはずなのに。それなのに……。



どうして苦しいの?

どうして、涙がでるんだよ……。




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