君が涙を忘れる日まで。
終業式の間、私は必死に気持ちを落ち着かせた。

泣いたり落ち込んだりしたら、香乃が気付いてしまうから。



二学期最後のホームルームを終えロッカーの整理をしていると、教室を出た修司が下駄箱とは反対方向に歩いて行った。


今日は部活もないはずなのに、どこに行くんだろう。


あまり気にしないようにと荷物を持ち、帰って行くクラスメイトに手を振りながら香乃のクラスに着くと、そこに香乃の姿はなかった。


何度見渡してみても、教室にも廊下にも香乃はいない。


お互い部活のない日は一緒に帰るのがあたり前だったから、今日もそうなんだろうと思っていたけど、香乃からはなにも言われていない。


張り詰めた不安が、雨雲のように一気に広がっていく。



怖いくせに、震える足は勝手に体育館へ向かっていた。


行かなきゃいいのに、悲しい妄想なんてしなきゃいい。

それなのに、私の足は勝手に二人を探してしまう。



こんな時でも私は、神頼みしかできない。


どうか、このままこの恋に終わりを告げることのないよう、どうか、二人が一緒にいませんように……。



体育館に近付くと、ダンダンという床を打ち付けるボールの音が聞こえてきた。


ゆっくり入口に立つと、ボールの音が止み、そっと中を覗き込む。



そこにいたのは……大好きな人と、大好きな幼馴染だった。


私は咄嗟に顔を引っこめた。ドキドキドキと、止むことのない心臓の音。



ギュッと目を瞑り拳を握りしめ、もう一度中を覗く。



「あのね、わ……私……」



お願い、言わないで……。



お願い香乃、私も……私も修司が……。







「修司のことが、好きなの」






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