君が涙を忘れる日まで。
「ちょっとトイレ行ってくる」

お弁当を食べ終えた私は教室を出て、そのままトイレの前を通り過ぎた。


一組のうしろのドアからそっと中を覗き込むと、窓際の前から二番目の席に座っている香乃。

自分の席で、一人でお弁当を食べているようだった。


視線を廊下側の席に移すと、四人の女子が固まってお弁当を食べている。

昼休みだから廊下も教室も騒がしくて会話まではまともに聞き取れないけれど、さっきからそのグループの女子達は香乃の方を見ながら笑っているように見えた。


周りには他にもクラスの女子がいるのに、誰も香乃に話しかけようとしない。


一人机に向かっている香乃の背中はとても小さくて、今すぐ行って抱きしめてあげたかった。


だけど……香乃を守るのは、もう私じゃない。


グッと拳を握りしめ、ゆっくりと香乃から視線を逸らす。





教室に戻って午後の授業を受けている間も、香乃の小さな背中ばかりが浮かぶ。


修司は知らないの?彼女なのに、彼女がクラスで一人なのに気付かないの?

男ってそういうところ、ほんと鈍感だ。

香乃もきっと、心配させまいと態度に出さないようにしてるんだろう。


クラスの女子も、誰も香乃の味方をしてないんだろうか。


香乃は誰にでも優しいし真面目だし、少し大人しいところもあるけど、だからって虐めていい理由にはならない。



どうしようもない苛立ちを感じているけれど、私はどうなんだと自分に問いかけた。


私だって、香乃を避けてる。それって彼女達となにが違うんだろう。

自分が傷つかない為に、香乃を……。




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