君が涙を忘れる日まで。
すれ違う生徒にぶつかりそうになりながらも、私は全力で走った。

校舎の中にいる生徒の姿は疎らで、ひとつひとつの教室やトイレを見て回る。



そして一組の教室の前に立つと、前後のドアは完全に閉められているのに、中からは微かに話し声が聞こえてきた。


そっと前のドアを開けると、私がいる位置から丁度対角線上の窓際には数名の女子が立っているのが見えた。

お昼休みに見たグループだと、すぐに気がつく。


胃を締め付けるような不安と、言いようのない後悔の念が徐々に押し寄せてきた。



四人の女子に囲まれている香乃は、スカートを握りしめている。

いつも明るく前を向いている香乃が下を向き、悲し気に潤む大きな瞳は涙を流さないようにと必死に耐えているように見えた。



私はなんてバカなんだ。

私はなんて愚かなんだ。


香乃のことを見ないようにしていた間、香乃はずっとこんな表情をしていたのかもしれない。

誰かに助けを求めたくても、その唯一の相手は自分を見てくれない。

どれだけ悲しくて、どれだけ辛かったか、考えただけでも胸が張り裂けそうになる。


ずっと逃げ続けていた私は、理不尽な理由で孤独になっていた香乃に気づけなかった。




ゆっくりと近づくと共に聞こえてくる、鋭い刃物のような言葉たち。



「なんであんたが修司と付き合ってんの?」

「暗くて地味なくせに」

「人の気持とか考えないわけ?」

「早く別れろよ」


香乃は俯いたまま唇を噛み締め、心を突き刺すような言葉にジッと耐えている。





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