君が涙を忘れる日まで。
不快感を露わにした表情で、八つの目が私を睨む。


「なに?今取り込み中なんだけど」

腕を組みながら一歩前に出た女子の剣幕にも、私は揺るがない。


心が震えても、たとえ手を出されたとしても、私の背中に伝わるその小さな手が震えているから。



「くだらない理由で香乃を虐めるのはやめて。修司は香乃が好きなの、あんた達がなにを言ってもそれは変わらない」


虐めをしたって、妬んだって、気持は変わらない。

いくら距離を置いたって、見ないようにしたって、彼が見ているのは……香乃なんだから。



「は~?マジムカつくんだけど」



ーーガラッ!

「なにやってんだよ!」


勢いよく開けられたドア、そこには修司が立っていた。


ツカツカと歩み寄る修司に、女子達は少しずつ後退していく。


「香乃になんかしたの?彼女のこと傷つけたら、マジで許さないから」


決して怒鳴るわけではないけれど、いつもは温厚な修司が怒りを含んだ低い声でそう言い放った。


逃げるように教室を出て行く女子達。


私の背中から聞こえてくるのは、「ごめんね」と何度も繰り返す小さな声。



違うよ。謝らなきゃいけないのは私なんだ。


いつも私を支えてくれていた香乃を、守ると誓ったのに……。



「ごめんね……」


ポツリと呟いた私の言葉が、香乃に聞こえたのかは分からない。


でも、ごめん。




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