君が涙を忘れる日まで。
「だから私の気持は、香乃が苦しまないように悲しい気持ちにさせないように、今まで通り楽しく……」


「なんだそれ。香乃のため、関係が壊れないためとか言って、そうやって下手くそな笑顔浮かべて、それが樋口の言う楽しいってやつなのか?」


なんで、どうしてそんなこと言われなきゃいけないの?

私の気持なんて、幸野君に分かりっこない。


幸野君から視線を逸らし、机の上に置いた手をグッと握りしめた。


「仕方ないじゃん!香乃は私の大切な親友なの、幼馴染なの!香乃を悲しませるくらいなら、こんなのどうってことない!」


大好きな人のうしろ姿を見るたびに胸が苦しくなって、隣を嬉しそうに見つめる香乃の横顔に心が痛んだって、私さえ我慢すれば……。



「なにも言わずにひとりで泣くことが、浅木のためだって言うのか?」


席を立った幸野君がゆっくり私に近づき、隣の席に座った。


「私、泣いてなんかない」

「最初に言っただろ。泣いてるようにしか見えないって」

背もたれに寄り掛かり、天井を見上げた幸野君。


「浅木だって同じじゃないのか?もし自分のせいでお前を苦しめてるって知ったら、浅木はどう思う?」


「だから!だから……私が言わなければ、このまま忘れてしまえばいい話でしょ!?」


その為に、私は幸野君に全てを話して、思い出の一つ一つにさよならしようって決めたんだ。


「で、さよならの旅ってやつは、どうだったんだ?全て忘れて、心がスッキリ晴れたのか?」


私は自分の胸に手を当て、視線を落とす。

終われると思った。これでもう、神様が終わらせてくれるんだと。


それなのに、幸野君に話をするたびに思いが甦ってきて、消そうと思えば思う程……苦しかった。


「好きって気持ちはさ、一度書いたらなかなか消えないんだ。その思いが大きければ大きいほど」



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