君が涙を忘れる日まで。
「じゃーどうしたらいいの?ていうか……私、なんでここにいるんだよ……」


幸野君の視線から逃れようと、机に顔を伏せた。


「消えてしまえれば、楽だったのに。そうすれば二人は……」


「ふざけんな!」


静かな教室に響き渡った怒鳴り声に顔を上げると、強張った表情で私を見つめている幸野君。


「言ってることがおかしいだろ?消えれば楽?そうすれば二人は気を遣わずに幸せになれるとでもいいたいのかよ」


男の人に怒鳴られるのは初めてだった。

でも怖いという気持ちにならなかったのは、幸野君の目に、悲しみの色を見たから。


なんで私なんかのために、そんな目をするの?



「悲しませたくない裏切りたくないって思ってるなら、もしお前が消えた時、大切な幼馴染はどう思う?
お前が一番泣いてほしくないと思ってる人が、一生泣き続けることになるんだよ!」


机の上にぽろぽろと零れる涙は、何度拭っても溢れてくる。


「……っ…うっ……だって…分かってる……でも」


心の中に溜まった気持ちが、どこにも飛び立てないままの思いが、私を苦しめるんだ。



「簡単だよ」

「……」

「樋口の……奈々の心の中にある本当の気持を、吐き出せばいい。浅木にも、修司にも」


ずっと嘘ついてきたのに、ずっと騙してきたのに。


香乃の幸せを願うふりして、本当は泣いていた私を、香乃は受け止めてくれるんだろうか……。



「怖いかもしれない、凄く不安だと思う。でも本当の気持を伝えた時、奈々はきっと……」


「幸野君……」


「大丈夫だよ。もしお前が泣いたら、俺がたこ焼きおごってやる」

「なんで、たこ焼き……?」

「いいだろ、美味いんだから」



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