君が涙を忘れる日まで。
あの胸のざわめきを感じた日から、私は毎朝園田君を探すようになっていた。

勿論キョロキョロと見渡すわじゃなくて、無意識に自然と。


でもクラスメイトなんだから挨拶くらい気楽に出来るはずなのに、未だに「おはよう」も言えていない。


入学して二週間、今日こそ言いたい。

だけど今までお互いほぼ無視状態だったのに、突然挨拶なんかしたらビックリするだろうか。園田君も、一緒にいる香乃も。



「ねぇ奈々、四組は委員会決めた?」

改札を抜けながら振り返って香乃が聞いてきた。


「まだだよ。今日決めるとか言ってたような」

「私なにやろうかなー。一番楽なのってなんだろうね」

「さぁ、結局どれだろうと楽な部分と面倒な部分があるんじゃないの?」

「奈々はいいよね、私と違って社交的だし、誰とどんな委員会になってもすぐに馴染みそう」


香乃の言う通り、子供の頃から私はどちらかというと明るく社交的で、香乃は大人しくて内向的な性格。

とは言っても私と一緒にいる時の香乃は言いたいことを割とハッキリ言うし、くだらない冗談も言って、似てない物まねだって披露してくれる。

学校でもそういう香乃を見せればいいのに、香乃いわく、それはまだ恥ずかしくて無理なんだそう。


「あっ、もう来たよ!」


階段を上がりきるのと同時に、ホームに電車が入ってきた。

そのまま一番近い場所に立ち止まろうとした香乃の手を咄嗟に握り、私は早足にホームを真っ直ぐ進んだ。


「疲れたからここでいいじゃん」

「駄目。三両目じゃなきゃ階段遠くなるでしょ!」


三両目じゃなきゃ、園田君に会えない。



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