君が涙を忘れる日まで。
「よかった、よかったよ……奈々。私……っ、あぁ…」


「ごめん、ごめんね……香乃、っごめん」


香乃に辛い思いをさせたくなかった、悲しませたくなかった。それなのに。


たった一つの嘘が自分を苦しめ、一番泣いてほしくないと思っていた人に、こんなにも悲しい思いをさせてしまったこと。


ごめんね、ごめんね香乃。



お互いの気持が落ち着くまで、私達は何も言わずに抱き合った。



徐々に二人の呼吸が整ってくると、ゆっくりと私から離れた香乃。

そのまま置いてあったパイプ椅子に座った。


目の前にいる香乃は目も鼻も真っ赤で、子供の頃に撮った写真と同じ顏をしている。

私はもう一度呼吸を整えようと、深く息を吸い込んだ。



ーー幸野君。私、ちゃんと言うよ。嘘の笑顔なんかじゃなくて、心から笑えるように。




「香乃、私ね……修司のことが好きなの」


真っ直ぐ私の目を見つめたまま、香乃は小さく頷いた。


「ずっと言えなかった。言ったら香乃が辛くなるんじゃないか、そう思ったから」


私が香乃の気持に気付いたように、香乃もきっと、私の気持に気付いてたんだと思う。

私が気付いて香乃が気付かないはずないから。


それでも香乃は、勇気を出して自分の気持を正直に話してくれた。

きっと、私も言ってくれると信じて。


なのに私は言わなかった。




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