君が涙を忘れる日まで。
「ずっとずっと、祈ってたの。どうか、どうか奈々の好きな人が……修司ではありませんようにって。
自分勝手だって分かってるけど、一番大切な人と、同じ人を好きになんてなりたくなかった……」


私も同じだったんだ。香乃と同じことを、ずっと祈ってた。


初めて本気で誰かを好きになった時には、お互いの恋を応援して、相談に乗って、励まして、そうやって二人で楽しく……。


私達はお互いを大切に思うあまり、嘘を付き、心の中で泣いていたんだ。



「事故にあった時、もうこのまま消えてしまえば楽になるって思ったの」

私の言葉に香乃は目を見張り、次第にその顔は険しくなっていった。


「これでもう香乃を苦しめずに済む、私も嘘をつかなくていいんだって。だから……」


「バカ!奈々のバカ!」


香乃が立ち上がると、パイプ椅子はそのままガシャンと音を立てて倒れた。

怒りよりも、深い悲しみを含んだ目で私を見下ろす香乃。


「奈々が……奈々がいなくなったら……っ、私は」


涙で言葉にならなくても、香乃の思いは伝わってるよ。

自分の心を見失い、本気で消えたいと思った私に、彼が教えてくれらから。


ーー『お前が一番泣いてほしくないと思ってる人が、一生泣き続けることになるんだよ!』


私は香乃の手を強く握り、涙でグシャグシャになったその顔を見つめた。


「ごめんね香乃。私もう、嘘はつかないから。だから香乃も苦しまなくていい。私、ちゃんと自分の気持を伝えて、それで前を向くから」


もう下手くそな笑顔なんて作らなくていいんだ。

心にある気持ちを全て吐き出して、明日を迎えよう。


もしも私が泣いたら、その時は……。






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