危険地帯
優しいヒト(西篠司side)
【西篠司side】
正しさも正義も信用できなくなった俺は、全てを捨てる代わりに、たった一つの約束を交わした。
空っぽな胸に約束を抱いて、“あの日”闇の世界に飛び込んだ。
「――俺、黒龍抜けるから」
その宣言に驚いたのは、羽留だけ。
深月と律が動じないのは、毎年のことだからだ。
「いつだ?」
「明日だけだ。明後日の夜には戻ってくる」
深月の問いに、俺はすぐに答える。
俺達の会話を聞いていた羽留の頭上には、「?」が浮かんでいた。
「え、あ、あの……?」
「心配しなくても大丈夫だよ~、羽留」
羽留は心配しているわけじゃないと思うが……。
俺が黒龍を抜けると言ったことが、意外だったのだろう。