危険地帯
ラーメンの匂いがまだ残っているキッチンで、「ありがとう」と言われて機嫌がいい俺は、洗い物をしながら、ふと“あの日”のことを思い出した。
闇の世界に飛び込んだ“あの日”も今日のように、ラーメンを食って喋っていた――。
俺が家を出た日。
それなりに評判の良かった、繁華街にある“素野 真汰【ソノ シンタ】の店”という店長の主張が激しい小さなラーメン屋に、俺と深月はいた。
俺が塩、深月が醤油ラーメンを注文してすぐに、ラーメンが運ばれてきた。
『なあ』
割り箸を割りながら、深月に声をかける。
深月は既に麺をすすっていた。
『んー?』
『どこの族に入るんだ?』
俺がそう尋ねると、深月はスープを一口飲んでから、目を俺に向けた。
『黒龍』
それだけ言うと、深月は箸を進めた。
俺も食べようとしていたが、予想外の返事に手が止まる。