危険地帯
不安定に揺れていた心臓が、一秒だけ静まる。
涙が溢れていた視界は、ちょっとボヤけていた。
「ど、どうしたの?」
慌てて、泣きそうになっていた目をこする。
「朝食まだか?」
「も、もうちょっとだよ」
落ち込んでいたことがバレないように、朝食作りに集中しなくちゃ。
サラダはすぐ出来上がったから、あとはフレンチトーストの裏面を焼くだけだ。
「今日はフレンチトーストか」
「うん。あ、苦手だったりする?」
「いや、別に普通。律は好きかもしんねぇけど」
そういえば、私ってお父さんの好物とか何も知らないかも。
いつも、作った料理は食べてくれるから、何でも食べられるとは思っていたけど。
家族なのに、ずっと一緒にいたのに、そんなことも知らなかった。