危険地帯
心には、モヤモヤと霧がかかっていた。
ポツポツと、雨が降り出していたせいもあったのだろう。
久し振りに、心臓に痛みを感じた。
『深月!』
あの時、羽留が俺を止めてくれなかったら、俺はどうなっていたんだろう。
雅岳斗が、俺にとってのタブーを口にしてからの記憶が、ほとんどない。
いや、正確に言うと、曖昧にしか思い出せない。
ただ、ひどく荒れていた。
まるで、感情のない野獣のように。
羽留の真っ赤な血が、目に入る。
……あぁ、嫌だ。
血なんて見慣れているはずなのに、初めて見たかのような気分だ。
こんなことになるなんて、思っていなかった。
触れてみた羽留の頬は、とても冷たくて。
奥歯を噛んでも、苦しさを紛らわせることはできなかった。