危険地帯



目眩がする。


クラクラと、視界が揺れて、霞んで。


お母さんしか、見えなくなる。



「ど、して……」



うまく声が出なかった。


どうして、ここにいるの?


こんなところで会うなんて、思ってもみなかった。


私、今どんな顔をしているんだろう。


……もう、何もわからないや。



「今、こっちでバイオリンを教えてるの」



耳に髪をかけながら、蔑むような瞳で私を見るお母さん。


お母さんがよく聞かせてくれたバイオリンの演奏を、思い出す。


私のせいで、奏でられなくなったバイオリンの音色を。



急に動機が速くなって、平常心と精神に小さな亀裂が入る。


また、目がくらむ。



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