危険地帯
“ニヤリ” (猫平律side)
【猫平律side】
夏らしい生暖かな風が、生い茂った葉を足元へ運ぶ。
夜へと塗り替えられた空を見上げると、“あの日”のことを思い出す。
僕が黒龍に入るきっかけとなった、あの出会いを――。
繁華街にある有名なレストランの扉を開ける。
今日のデート相手の派手な女とレストランを出ると、女は僕の腕に自分の腕を絡めた。
「ねぇ、次はどこに連れて行ってくれるの?」
甘えるような猫なで声を出す女に、反吐が出そうだ。
上目遣いで僕を見る女に、薄っぺらい笑みを見せる。
「君の好きなところに行きたいな~」
適当にそう言うと、女は嬉しそうに笑った。
女って、簡単だな~。
こんな風に簡単に好いて、騙されて、作り笑顔に喜んで。
バカみたいだ。