危険地帯
そういえば、この女の名前って何だっけ。
思い出せないや~。
僕にとって、“女”はその程度の存在。
「じゃあ、服が見たいなぁ!」
ブランド物のバックを見せびらかすように歩く女の隣は、居心地が悪い。
ふと、レストランの隣の隣にある、今はもう潰れてしまった店の屋上が、視界に入った。
そういえば、あそこって……。
瞬間、脳裏を駆け巡った過去。
足を止めた僕を不思議に思った女は、
「どうしたの?」
と、首を傾げながら声をかけたが、僕の耳には届かなかった。
いや、きっと、その声を受け付けなかったんだ。
瞼の裏に映る、フラッシュバックした“あの日”。
あれは、リーダーが黒龍の九代目総長になって間もない頃のことだった――。