君と僕の白昼夢
「あれって…」
そう呟いた時にはもうその人物のもとへ向かっていた。
教室を出ようとしているところだった。
「瀬川!」
「…え?」
そう、瀬川小春だ。
すっかり忘れていた。頭にもなかった。
彼女が持っていた、あの本のこと。
振り向いた瀬川はとても驚いている。
「この後…なんかある?」
唐突に聞く。
「立花くん…急にどうしたの?」
「まあいいから!聞きたいことがある」
俺は瀬川を急かした。
なんせ時間がないんだ。
「あ、空いてるけど…」
まあ空いてなくても無理やり聞き出すけどな…
瀬川の答えを聞いた瞬間、俺は日和の方を向いて片手でごめん、とジェスチャーをした。
「わり、先帰ってて」
それは色んな意味の謝罪だった。
「う、うん。わかった…」
日和はそう言うと教室を出ていった。
不思議な目をして俺を見ながら。
この後日和は死ぬ。
わかってるんだ。わかってるけど…
こうするしかないんだ。
俺は日和を見送ると瀬川に言った。
「座ろう。長くなる」
そして俺たちは椅子に座った。
俺は瀬川の席の隣に座った。
「話って…?」
瀬川が俺に聞く。
「…あの本、持ってる?」
俺が瀬川の鞄を見つめる。
「あの本って?」
「だからあれだよ。この前…」
この前ぶつかった時の…と言おうとしたが気がついた。
あれは俺だけの記憶だ。
みんなはリセットされているんだ。あれはなかったことになってるんだった…!!!
あれは“今日”の出来事。
でもその“今日”は彼女たちの記憶にはない。
忘れていた…