君と僕の白昼夢


「あ!ほら見えてきた〜!」

日和の声に俺は我に返る。

日和が指を指す先には綺麗な海が広がっている。

そして気づいたら雲のせいで辺りは薄暗くなっている。


え…天気悪…

まあいいか…とにかくひとけのない広い所へ来たかっただけなのだ。

案の定、季節的にも天気的にも人はいない。

「わー少し寒いねー!」

でも日和は楽しそうに小走りで波打ち際に近づく。

俺は腕時計を確認した。

4時45分…

あと25分て所か…


こんな広い所で一体どうやって日和の死はやってくるのか?

こんなに、何も無い場所で。


俺はもちろん、はしゃぐことなどできない為、浜から日和を見ていた。

日和は貝殻を探したり波に近づいてみたりと、1人で遊んでいる。

子供のようだった。





「ちょっとー!卓が誘ったのに何突っ立ってんのー!」

日和が、手招きをした。

俺は笑って日和の方へと歩みを進めた。

「やっぱいつ来ても楽しいね!海は!!」

日和が笑う。

ほら、その笑顔が俺は好きなんだと思う。

「日和はガキだな」

「何よ!」

そう言った日和に水をかけられる。

「うわっ!つめて!」

もろに水をくらった。制服のズボンが濡れる。

春の海の水は本当に冷たかった。

でも、何故か生きてると感じた。この冷たさが俺の背中を押すように。

「やったなー」

俺は仕返しに両手を海に入れ、思いっきりすくうように水を日和にかけた。

「わっ!」

日和のスカートが濡れる。

「もー冷たいー」

それでも日和は楽しそうに笑い、俺を見た。



俺たちは時間を忘れて笑いあった。




「もう、私たち本当に子供!」

「本当だな」



その時だった。







ポツ…





「え?」


ポツ…




「わ!卓!雨だよ!!」


とうとう、灰色の雲から雨が降り始めた。

海水で少し濡れている俺たちの体温を一気に奪う天気となる。

「雨宿り雨宿り!」

日和はそう言って、海の家に向かって走り出した。

夏になるとそこでは、かき氷やラーメンなどが売られる場所となるが、この季節ではただの建物だ。

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