世界が終わる音を聴いた
湯気のたつご飯。
お味噌汁、お茶。
「よく降るわねぇ」
「でも昼には止むって言ってたぞ」
「あらそう?」
「天気予報見ればいいじゃない」
家族で囲む食卓は日常でありながら、奇跡の欠片のようなものなのかもれない。
父は仕事のため、食事を終えるときっちりいつも通りの時間に出ていく。
私はその背中に、いってらっしゃい、と呼び掛けると父は、行ってきます、と一言。
小さな日常の一つ一つが大切な宝物になっていくことを私は知っている。
だからどうか、こんな些細な日常もいつか笑って話せる日が来ますように。
食事を終えて私はギターを取り出す。
この数日で時間の許す限り、何度も何度も繰り返して弾いた。
かつて何度となく演奏していた曲たちは、弾くほどに手に馴染み、喉に馴染み、それがまた嬉しくて。
ギターを弾くことの、歌うことの、音楽に対する喜びを私にまた教えてくれる。
「お母さん、出てくるね」
「あら?ご飯は?」
「うん、外で食べるよ。ありがと。行ってきます」
「いってらっしゃい。気を付けてね」
お昼過ぎ、私は一区切りをしてギターを背負い、母の言葉を背に家を出た。
天気予報の通り、いつの間にか雨は止み、空は青く晴れていた。
気温の上昇と共に、今日はきっと蒸した暑い1日になるだろう。