世界が終わる音を聴いた

「こんにちはー」
「いらっしゃい。……まだ時間は大分早いよ?」
「分かってますよ。そこまでもうろくしてません」
「ははっ。そこ、空いてるから座ってて」

カラン、と相変わらずカウベルのレトロな響きがする扉を開けて顔を出すと、俊平さんは中々な扱いをしてくれる。
指定された席に座って周りを見ると、普段はランチで賑わうこのお店も、どうやら今日はそこまで混んでいるわけでもなく二組のお客さんが居るくらい。
平日ってこうなのかな?
暫くすると、他のお客さんへの接客が終わったのか俊平さんがやって来た。

「あの、俊平さん?私も一応お客さんだと思うんですよ」
「まぁいいじゃない。身内みたいなものだよ、chiyaちゃんは」

にっこりと屈託のない笑顔で言われては、もうつっこむ気にもなれない。
大人しくB.L.T.Eサンドのランチを注文すると俊平さんはオーダーを通しに厨房へと姿を消した。
窓から降り注ぐ陽気と店内のクーラーがちょうど心地よくてこの世界の暖かさみたいなものを感じる。
……いくらなんでもちょっと大袈裟かも、なんて思わず笑う。
暖かいのは世界、というよりこの空間かも。
このお店の持つ雰囲気は独特で、賑わいを見せながらも慌ただしく急かしたりせず、緩い。
オーナーや俊平さん、シキさんの持つ雰囲気がうまく噛み合ってこの独特な空気、空間を作り出しているのだろう。

「お待たせしました」

持ってきたB.L.T.Eサンドを置いて、そのままごくごく自然に私の前に腰かける俊平さん。
思わず無言で見つめると、この通り暇だし?と悪びれなく言うものだから、また何も言えなくなる。
接客業はこの人の天職だと本気で思う。


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