世界が終わる音を聴いた
有給使ってるんだから、本来なら近付かないのがベストだよな、なんて思いつつも近くのコーヒーショップに腰を落ち着けた。
窓際を陣取り、流れる人波をぼんやり見つめる。
『聞く相手を間違っちゃいないか?』
昨日の花守さんの言葉に、私は、どうしようもないこともあると答えた。
変わらないこともあると言うその言葉には素直に頷けなかったけれど、もしここで、時間までに学くんを見つけられたら花守さんの言う言葉を信じてみようと思う。
タイムリミットは1時間を切っている。
「無謀な賭けだなぁ」
苦笑いしながら時間をもて余す。
スーツを緩めるサラリーマン、急ぎ足のOL、エコバッグを提げた主婦、制服の女子高生は部活帰りだろうか。
苦いコーヒーを少しずつ飲んでぼんやり見続ける。
ファストブランドのコーヒーショップらしく、長居する人は多くない。
隣の席の人はもう2人目だ。
行き交う雑踏はただの景色のようなのに、なんでその人だけは特別に映るんだろう。
私は席を立ち上がって、店を出た。
「大石さん」
声になるはずだったそれは、音にならずに雑踏に消された。
あの柔らかな表情は会社で見せる“大石さん”じゃない。
その視線の先には紛れもなくあの人がいるのだろうことがわかる。
たったそれだけで勇気は萎んで、踵を返す。
―――……タイムリミットだ。
時刻はもうすぐ17時。
これ以上ここにいては準備に間に合わなくなってしまう。
お店に行かなくちゃ。