世界が終わる音を聴いた
言い表せない複雑な心境を整えるように、窓を流れる景色を見ていた。
『どうにもしようが無いことも、世の中にはあるんですよ』
まったくだ、とつくづく思う。
あの人のあの眼差しが向けられるのは私じゃない。
どんなに頑張ったって、あの人に愛されるのは私じゃない。
そんなわかりきったことを突き付けられる。
バカだな。
もう学くんは……大石さんは、ヒナちゃんのモノですらなくて菜々美さんのモノ。
分かってたことだ、初めから。
だからって、あなたの愛情はそんなものだったのか、と私が言うわけにもいかなくて。
そんなのは私に向かない愛情への妬みでしかなくて。
だからもう、結局はいつもと同じ答えにたどり着くのだ。
“どうにもしようが無いこと”なのだ。
無理矢理納得させた心をため息で濁してごまかした。
カウベルの音を聞きながら店内に入ると既に何人かのお客さんがいて、少しの緊張感を覚えた。
ここから、この場所で私は芦原千夜子ではないchiyaになる。
最後のステージだ。
「おかえりなさい」
「シキさん。戻りました」
出迎えてくれたのはシキさんで、預けていたギターをそのまま渡された。
お客さんはチラリとこちらを一瞥したけれど、そのまま再び自分達の世界へと入っていった。
私たちは狭いバックヤードへ下がり、汗でベタつく服から、持ってきていたTシャツに着替えたりと軽く身なりを整えていく。
「……スッキリした、とは言えないようね?」
「や、はは。でも歌に支障はないですよ」
「良いのよ、別に」
外に出ていたためにバサバサだった髪の毛を纏めていたら、指摘をされてその手を止めた。
さっきまでの苦しかった思いを閉じ込めて、大切に歌おうと思っていたのに、突き放された物言いに眉が寄る。