世界が終わる音を聴いた
なんで泣いているのかなんて、複雑すぎてわからない。
ただ分かるのは、私はヒナちゃんのようにも菜々美さんのようにもなれないってことだけ。
なにも知らないその人は、私の手を取り穏やかに笑む。
一時でも学くんを奪ってしまおうか、などと思ってしまった私を見て、穏やかに笑む。
それはすべてを包み込むようなあの太陽のように暖かな笑顔。
思えば、ヒナちゃんも最期まで苦しそうに、でもこんな風に暖かな笑顔を貫いていた。
それが愛というもの、なのかもしれない。
すべてを包み込み、飲み込み、雨でぬかるんだ土さえも乾かす。
命の源のような、太陽のような、愛。
あの太陽のように、ヒナちゃんのように、あなたのように、私は人を愛せていたのだろうか。
愛してほしいと、必要としてほしいとばかり募らせて、私は同じように人を愛することができていたのだろうか?
私は涙をぬぐい、菜々美さんとふたり、駅までの道を並んで歩く。
どうやらいつの間にか私たちを追い抜いていた学くんが、駅前で待っている姿が見えた。
その姿を、菜々美さんも目に止めたのだろう、微笑みがより柔らかくなる。
視線をそのまま学くんに預けたままで、菜々美さんが言った。
「ねぇ千夜ちゃん。あなたのこと、好きよ。もちろん、陽奈子さんのことも」
私はこの人に敵わない。
きっと、ずっと。
「私も……菜々美さんのこと、好きですよ」
心から、好きですよ。
そう伝えた瞬間、目に入ってきたのは暴走した自動車だった。
居眠りなのか、薬なのか、病気なのかは定かではないけれど。
咄嗟に、菜々美さんの体をドン、と押した。
次の瞬間、衝撃と共に大きな光に包まれた―――……。
「世の中、うまくいかない」
最後に嘆いた言葉は空気に溶ける。
その瞬間に見た空は、赤く、赤く。
太陽が、世界を染めていた。