世界が終わる音を聴いた

マサの魂を送ってからしばらく、俺はその場でその家族を見ていた。
相変わらず病院は忙しなく時間が過ぎていて人の行き来が激しい。
俺と同じように魂を送ることを仕事にしている奴らも多く、人々が命を終える瞬間を待機している。

「おい、そこの。ちょっと手伝ってくれないか?」

声をかけてきたのは、ふさふさの白髪に白のシルクハットがよく似合う真っ白のタキシードを着た男。
紳士というにふさわしい、といった風貌だ。

「何かあったか?」
「いやなに、ちょいと執着が強かったらしくてね。うまく上がれないようなんだ」
「……そうか」

俺はため息ひとつ吐いてその紳士の仕事を手伝いに赴く。
行くとなるほど、確かにその霊魂が黒く渦巻いている。
このままではいわゆる“地縛霊”になりかねない、といった様子だ。

「説得をしようにも、こちらの話に耳を向けようともしない」

困ったよ、やれやれ、とでも言いたげな調子でその紳士は続ける。

「どうやら、いじめの末に自殺を図ったようだが。うまくいかずに死ぬに死ねなかったらしい」
「そうか」
「一人だけ、気にかけていてくれたのが居たらしいが……本人がそれに気付いていたかは分からん」

その返答に俺の眉間にはシワが寄った。
人というのは、まったく。


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