世界が終わる音を聴いた
ため息をひとつ吐いて、俺はその渦巻く黒いものに声をかける。
「おい、お前。死にたかったのだろう?死ぬほど辛かったんだろう?」
投げつけた俺の言葉にどうやら反応しているらしい。
それを受けて俺もそのまま続ける。
「良かったじゃないか、死ねて」
「おいおい、そんな煽るようなマネ……」
紳士は俺を止めようとするが、それは無視する。
優しく説得したところで耳を傾けないのなら、ガツンと言ってまずはこちらに意識を向けさせなければならない。
案の定、それはこちらの言葉に反応してこちらに意識が向いた。
「あいつらを呪う」
「バカだな、お前。呪ったところで何も生まれんさ」
「あいつらがのうのうと生きているのが許せない」
黒い渦が大きくなる。
よほど恨みが強いのだろう。
驚きを隠せないといったように紳士は俺と黒い渦を交互に見ている。
俺は黙って見ていろ、とその紳士を目で制すとそれと話を続けた。
「生きている方が……辛いことも多かっただろう?お前、死後の世界を考えたことがあるか」
「……?」
「真っ当な死に方をしたモノはちゃんとすべて清算されるんだよ。生きている苦しみよりもよっぽど良い」
「じゃあこれは何なんだよ?生きているときの苦しみなんて無くなってないじゃないか」
「言ったろう?“真っ当な”死に方をしたモノは、と。お前、ろくな死に方しなかったんだろう」
激昂したように、それはぐるぐると渦巻く。
「っ!なんでだよ!あんな屈辱を受けて、自殺してまでろくな死に方じゃないなんて言われて!」
「だから、死にたかったんだろう?どんな死に方だったとしても死ねたんだ。良かったじゃないか」
その言葉を受け入れたそれはようやく高まったものが収まってきたのだろう。
黒いものが少しずつほどけていき、そこにはまだ少年と呼べるほどの若い男の子がいた。