世界が終わる音を聴いた

紳士と分かれ、俺はひとり先程の病室を目指し歩く。
夕食の時刻か、終わった頃合いなのか看護師たちは忙しく動いている。
その誰もがこちらに気付くこと無く自分の仕事に没頭している。

胸元に揺れるペンダントには、鈍い銀色に光る筒状のペンダントトップがついている。
俺はそれを一撫でした。
捻っても引っ張っても開くことのないそれには“時間”が詰まっているのではないかと俺は思っている。
自ら死を選ばなかったとしたら存在したはずの“時間”が。

命と言うのは、生まれたときから死に至るまで突発的事項がなければタイムレコードは決まっている。
その“突発的事項”について、具体例を挙げるのならば自ら命を絶つこと、だ。
病気、事故、老衰、その死因は様々であるが、その生、命を背負い人も動物も植物も生まれてくる。

言うなればそれは天寿、というのか。
それを全うしたものはマサのように、次の命に向かうため魂は繰り返す。
けれど、その時に執着が強いものは霊体が魂をも巻き込みそこに留まることになる。
うまく誘導し、解放させられれば先程の少年のようにその輪の中に戻らせることもできるが、完全に留まればその執着が解けるまでは、繰り返しの輪に戻ること叶わない。
しかし一度完全に留まってしまえば、その執着が解けることなどまず無いと言って過言ではない。
いわゆる地縛霊となる。
そばに居るのは、この体でいようとも不快極まりない。
なのでなるべくきちんとあるべき場所へ還られるようにと俺たちは促す。
自分達の存在を棚にあげて、だ。


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