世界が終わる音を聴いた
やがて先程の病室についた。
病室はすでに空で、ひっそりと静かにしていた。
大人たちは悲しみの間もなく、事務手続きなどするべきことをしているようだ。
俺はその場に立ちすくした。
そこには“千夜子”と呼ばれた少女が居た。
彼女の周りの色が鮮やかだ。
人はそれをオーラと呼ぶのだろうか。
少女は俺をじっと見つめている。
俺の後ろとかではなく、俺を。
幼い子供には稀にある。
俺や先程の紳士や少年、マサのように、この世から役目を終えたはずの“見えにくいもの”を見ることが。
動くはずのない鼓動が、跳ねたような気がした。
幼子に見られるということは何度か経験してきたが、こんな風になるのは初めてだ。
理由がなぜか、なんてことは本能が知っていた。
記憶が、魂が、彼女を知っているのだ。
その少女・芦原千夜子こそずっと探し続けていたかつての俺の魂の片割れに違いないと心が疼く。
『ハデス、こっちに来て。早く』
遠い記憶の彼方、君が呼ぶ。
待っていてくれ、今そこにいくから。
君を抱き締めたい――…。
胸元にあるペンダントを握る。
“君と出会っていなければ”なんて思わない。
“君とまた巡り会えたら”それだけを思っていた。
願った形ではなかったけれど、それは今、叶えられた。
ああ目の前が揺れる。
少女はキョトンとした瞳を俺にくれると、一転して、にこにこと笑顔で歩みより俺に抱きついた。