世界が終わる音を聴いた
「あなたハデス?そうでしょう?映画で見たよ!」
小さな腕を目一杯広げて、ぎゅっと抱きつく。
見えるものには触れる、見えないものには触れないらしい。
植物はともかく、動物や他の子どもには怖がられるか威嚇されるかで触られたことがなかったから知らなかったが、どうやらそういうことらしい。
初めての温もりに、思わず胸が熱くなる。
巡っていないはずの血がたぎるように、熱く。
「でもおかしいね。ハデスなのに映画のように青くもないし、髪の毛も真っ黒でさらさら」
にこにこ顔とハテナ顔が入り交じる。
俺はなにも言えずただその顔を見つめる。
その顔に“彼女”の面影はない。
当然だ。
少女は間違いなく今を生きているのだから。
「でも、あなたとってもキレイね」
やがて少女は母親に呼ばれて、ばいばい、と去っていく。
ひとり取り残された俺の頬はどうやら濡れているらしく、この姿でも涙は流れることを初めて知った。
『ハデスはそれで良いのよ。あなたはとても優しい。黒髪が変だなんて馬鹿げてるわ!』
遠い記憶で“彼女”が言う。
少女と同じように、その表情をくるくると変えて。
『ハデスはとってもキレイよ』
少女と同じ言葉を。