世界が終わる音を聴いた

話している間に、時間はそれなりに流れたらしく、空はほんのりオレンジがかっていた。
いつまでもこうしていても仕方がない。
最後にもう一度だけ、ため息をそこにおいて、ペダルを踏み込んだ。
夜風とまではいかないが、髪を靡かせる風は優しい。
朝の太陽、昼の太陽、夕方の太陽、見えはしないけれど、月を照らす夜の太陽。
同じひとつの太陽も、1日の中で違う表情を示す。

私は、いつだって“楽で、傷つかない”方を選んできた。
きっと多くの人と同じ。
ピアノとギターを習っていたからか、歌が上手いね、とはやし立てられその気になり、何度か受けたオーディション。
初めに落ちたときは“こことは縁がなかった”、次は“運が悪かった”、そして“タイミングは今じゃない”……言い訳に底がつきた頃に、自分の人生を悟る。

音楽は私を生かしてはくれない、と。

どんなに音楽が好きで、歌うことが好きで、それでも。
叶わないことがある。
“歌手になる”それは、小さい頃からの憧れで夢。
叶えられるのは一握りの人。
私はその一握りには、なれなかった。
歌手じゃなくたって、音楽に携わることはできる。
作曲、編曲、ピアノ演奏、ギター演奏、音楽の先生……歌い手とは別の、音楽への道。
続けていけば、その先に、もしかしたら“歌手”という夢を叶えることができたのかもしれない。
けれど、私にはそんなこと、できなかった。
歌手になれなかったという現実があまりにも苦しかったし、砕け散った夢にすがっているようで、そんなことできなかった。
夢を叶えることよりも諦めることの方が簡単だった。
叶えるための努力より、諦めることの努力の方が楽だった。
転んでも泥臭く手を伸ばすより、砂をはたいて何でもないふりをする方が大切だった。

努力は実を結ぶ、なんてことは嘘だ。
どんなに努力しても裏切られることもある。
それならどうしたら良い?
簡単だ。
はじめから何でもないふりをすればいい。
手を伸ばさなければ傷付かない。

守るべきは、ちっぽけな私のプライド。
きっとそうじゃなきゃ、私にはとても立っていられなかったから。


< 20 / 149 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop