世界が終わる音を聴いた
Day 3*君にはまだ立ち上がる力があるはずだ
芦原陽奈子という人は、プライベートにおいて、喜怒哀楽を自分の全体で表現するような人だった。
たぶん、とても素直だったんだろうと思う。
悲しいことがあれば泣き、嬉しいことがあれば喜ぶ。
前向きで明るく、感動しいな、ちょっといたずらっ子な面もある、良い意味で子どものような人。
仕事面においては、また違う一面を覗かせて、冷静でいて情熱的な、相反するものを持ち、そしてとても、我慢強い人だった。
真面目で実直、努力の人。
それは周りからも評価された。
姉は人が大好きだったし、鏡を写すように、みんなから好かれた。
苦手だ、嫌いだ、という人もいただろうが、それは仕方のないことだ。
万人に好かれることなど、難しいことこの上ない。
事実、姉自身にも苦手な人はいたし、それはお互い様というところだ。
仕事に真面目に取り組めば、真っ当な職場であれば、それは評価に値する。
職場では、仕事を任されるようになり、それに応えるべく働く。
評価されるのはありがたいことだ、と、持ち前の我慢強さでコツコツと仕事に励んだ。
弱音をはくこともせず、コツコツと。
そしていつしか、任される責任感からか、逃れられない仕事にがんじがらめになっていたのだろう。
胃痛や体調不良などの違和感は、誤魔化しが効かないまでになっていった。
ようやく重い腰を上げて、ある日行った病院で、姉は“スキルス胃癌”と、診断された。
夏が来る前の、初夏のことだ。