世界が終わる音を聴いた
―――息苦しくて、目が覚めた。
どうやら私は、眠りながら泣いていたらしい。
5年経っても、記憶は無くせないものだ。
時間が経つにつれ、おぼろげになっていきはするものの、記憶の隅にこびりついて離れない。
見ていた夢を振りきるように、大きく、大きく息を吐いた。
それでも、胸一杯に空気を取り込むことができなくて、やっぱり少し息苦しく感じる。
窓に目をやると、まだ街は眠っている。
時刻は4時15分、日が昇るのはまだ少し先のようだ。
胸につかえたもやもやをどうすることもできずに、私は台所へ降りた。
冷蔵庫からペットボトルを出す。
両親は和室で寝ているので、極力音を出さないように食器棚からコップを取り出し、ペットボトルから水を注ぐ。
ゴクゴクゴク、と一息で飲みきると、大きく息を吐く。
ようやく、呼吸ができた感じ。
もう一杯、お水を注いで、ペットボトルを冷蔵庫へ戻した。
コップを持って、テーブルにいくと、ぼんやりと和室を見る。
冷房をつけているために襖は閉じられていて、両親の姿は見えない。
その襖を、睨むように見つめる。
……あのとき、皆が、絶望の中にいたのに、当の本人――ヒナちゃんだけが、希望を失わずにいたんだ。
余命宣告をされても、未来を見据えていた。
『病気になんて負けないよ。これからが勝負じゃん、泣いてる場合じゃないよ』
怯むことなく、その瞳に、希望の輝きを乗せた。
歩むべき未来を、見つめていた。
強く、真っ直ぐに、背筋を伸ばして。
うつむいて、目を閉じる。
涙は、頬を伝わない。
けれども、心がじくじくと痛い。
目に見えなくても、人は、心の深くで涙を流せるらしい。
医学は日進月歩の世界だ。
昨日救えなかった命も、今日なら、明日なら救える“かも”しれない。
それに賭ける気持ちと、もう変えられない運命だと諦める気持ちと、比重がどちらにかかっているのかわからない。
……いや、分かっているのだ。
本当は、救えるかもしれない、に、賭け“たい”のだ。
それは要するに、変えられない運命だと諦めている、証拠なのだ。
諦めたくない、最後の悪あがきだった。
誰ひとりとして、あなたを諦めたく、なかった。