世界が終わる音を聴いた
ゴク、ゴク、と今度はゆっくりと半分ほどの水を飲む。
――あのとき、ヒナちゃんは本当に、心から負けない強さを持っていたのだろうか。
“負けたくない”
“諦めたくない”
“死にたくない”
その想いを胸に抱き、心の奥底の“死の恐怖”から目を背けた。
計り知れない闇が、心を覆いつくそうとも。
その瞳から涙が溢れるのはいつだって、嬉しいとき。
それとも、みんなの知らないひとりの時に、泣いていたの?
大石さんには、涙を見せたの?
ヒナちゃん、あなたはなんて強くて優しくて……そして、残酷なのだろう。
ぼんやりとしたまま、水を飲み干して自室に戻る。
さっきとなにも変わらず、静かな部屋は渡をどうしようもなく孤独にしたけれど、明日……いや、すでに今日、の、仕事のために無理矢理ベッドに身を沈めた。
眠気は中々やってこなかったけれど、瞳を閉じてただひたすらに無心に努めた。
やがて知らぬ間にその意識すら手放して、深い眠りへと落ちていたらしい。
ピピピ、と目覚ましの電子音を止めて体を起こすと、ほんの数時間で街はもう目覚めていて、窓からは陽が射し込んでくる。
体も頭もスッキリ爽快とはいかないが、明日・明後日の休みのために気合いをいれて支度を整えていく。
いつもと同じように、顔を洗い、服を着替え、化粧をし、ご飯を食べ、歯磨きをして。
汗だくになって会社に向かい、上司や同僚に挨拶をして割り振られた仕事をこなす。
いつもと同じように。
だって、私の感情など置き去りにして、時間はみんなに平等に、いつもと同じように時を刻むのだから。