世界が終わる音を聴いた

立ち上がると“彼”は私の前から姿を消していた。
確かにその手を取って立ち上がったはすなのに。
周りを見ても先程と同じように人々は流れている。
その人波の中に“彼”を探すことは出来なかったが、流れる人たちも突然いなくなった“彼”に驚く様子もない。
初めからその存在が、そこにはなかったみたいに。

「魂を、送る人……」

ぽつりと呟いて、立ちすくした。
“彼”は、自分の仕事は魂を送ることだといった。
それは、どこへ?
……真っ白なスーツ、中性的な美しい顔立ち。
想像する死神とはずいぶん違うけれど。
多分きっと“彼”は、その類いで間違いないだろう。
初めて見た時と同じ、不思議な確信がある。
今はその、言葉をも受け入れられるくらいに。

私はようやく足を動かして歩き出した。
電車に揺られて、改めて考える。
あと5日、もう今日は終わりに向かっている、そう考えると実質何かできるのはあと4日だ。
あと4日後に、私はこの世界から旅立つらしい。

「誕生日かぁ」

初めて言われたときに、意識しなかった訳じゃないけれど、“彼”を信じた今、真正面から突きつけられている感じだ。
誕生日と命日が同じになるなんて、なんの因果だろう。
それまでに私には、何ができるんだろう。

電車に揺られながら、窓の外の流れる景色を見ていた。



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