世界が終わる音を聴いた
“彼”は、言葉を紡いだ後しばらく沈黙のままそこに佇む。
まるで私を観察しているかのように。
閉じられたその口から、言葉を発することはない。
読み解くことのできない“彼”の表情が僅かに変わったように感じた、次の瞬間、風が再びカーテンを揺らした。
バサバサバサ、と机に置きっぱなしになっていた日記帳が風にめくられている。
殴り書きのような文字が記された日記には、私のなんの変哲もない日常が書かれている。
本当に思っていることは、文字にすることすら憚られる。
あんなに静かだった部屋に、音が戻ったと思ったら、すでにそこに人影はなかった。
部屋には、思い出したかのように時計の秒針がカチカチと時を刻んでいる音が響いている。
―――これは、夢?いや……。
今しがた自分に起きた、不可思議な出来事が、夢ではなく現実であることを、何故だか私は理解していた。
頬をつねっても痛いだけだろう。
“彼”が何者で、なぜ私にそんなことを告げるのかは全くわからない。
けれど現実味の欠片もないのが、逆に妙にリアルで。
カチ、カチ、カチ、と時計が時を刻んでいる。
私の命のカウントダウンをするかのように。
「あと、1週間……」
――――命の期限を唐突に突き付けられたその日。
私は、世界が終わる瞬間の音を聞いた気がした。