世界が終わる音を聴いた
母はご飯を用意してくれてそのままお風呂へと向かったので、晩酌中だった父と食卓を囲む。
機嫌良さそうにスポーツニュースのハイライトを見ては私に解説をしてくれる。
そのうちにお酒もなくなり、父は寝室へと向かった。
そんな頃には私も食事を終えて、母はお風呂から上がってきた。
「ご馳走さま」
食事を終えて、手を合わせる。
“頂きます”“ご馳走さま”手を合わせて言うその言葉の意味にさえ、改めて気付かされる。
繋いでくれた命があって、私はようやくここにいられる。
私は生かされているのだ、このちっぽけな命でも。
死を目の前にして、ようやく気がつく。
誰だって、一人で生きていくことなんて、不可能だと言うことに。
「洗っちゃうから、あんたもお風呂に入っちゃいなさい」
「ありがとう」
「本当に今日は変な子ね。何かあったの?いじめ?」
「違うよ」
例え思っていてもなかなか聞けないだろうことを聞いてしまう母に笑って答え、私はお風呂へと向かった。
いじめられてる人が素直にいじめられてる、なんて言えるはずないこと百も承知の、母なりの冗談だろう。
実際、いじめられているわけでもない。
ただ思いもよらなかったことに直面しただけで。
お風呂から上がり、仏壇で手を合わせて考える。
これからの身の振り方をどうするべきなのか。
残された時間で、誰かになにかを影響させるような形振りをできるわけではないけれど……。
ヒナちゃんは、自分の病気を知ったとき、何を思ったんだろう。
聞いてみたくても、それは既にできないこと。
溜め息を吐いて、自室へと戻った。
考えようによっては私は幸せなんだと思う。
自分の死期を知ることができるなんて、中々できる体験じゃない。
“彼”は私に、何を求めているんだろう。