世界が終わる音を聴いた

『お前はこのまま、この世界から消えてしまっても良いのか?』と“彼”は言った。
『限られた時間をどう生きるのかはお前次第だ』とも。
このまま、とは本当は諦めていないのに、はなから諦めたふりをしている自分のこと。
それでいいのかと問われれば、そのままではいたくない自分がいることに気づかされた。
けれど、その限られた時間に、叶うとも思っていなくて……
期限を突きつけられたところで、どうにもできないような気もする。
考えて答えが出るものだったら、とことん考えたいものだけど、私にはその時間は無い。
社会の中で生きている以上、折り合いをつけることは必須だし、私がいきなり突飛な行動を取れるはずも道理もない。
……そう考えてしまうのは、諦めの一種なのかな?
いくらもう間もなく無くなる命だとしても、周りはそんなことを知らないし、自分勝手にわがままをできないのは当たり前だ。
望んで就いた職ではないにしろ、それなりのプライドはある。
“どう生きるか”見いだせないまま時間は過ぎていく。
とりあえず、と、日記帳を開いてペンを走らせることにした。

『仕事帰りにストリートを見に行く。カンタという、chiyaのファンだったという人に遭遇。花守さんと似たような、耳触りのいい歌を歌う。』

そこまで書いて手を止める。
私の命は今日を含めてあと5日なんて、書いたら自殺する人みたいだと思い止まったからだ。
その代わりに、平和な日常に感謝、と書いて締めくくる。
自分の書いた日記を見て、思う。
“どう生きる”かのヒントは、もしかしたら、ここにあるかもしれない。
そう感じて、私は過去へと記憶を辿ることにした。
幸い、明日は土曜日だ。
時間はたっぷりある。
パラリ、パラリとページを捲り、夜は深くなっていった。


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