世界が終わる音を聴いた
Day 4*歌え、君のその声で
過去を振り返ることは、いろんな思い出を呼び覚まして、いろんな気持ちを甦らせた。
「それで、答えは見えたのか」
急に声をかけられて肩が震えた。
そろり、と声のした方へと体を向けると、そこに“彼”がいた。
とても当たり前のような顔をして腕を組んでいる。
時計を見ると明け方4時をとっくに過ぎ、空はもう白んできていた。
ここで“彼”に、どこから入ってきたのかと聞くのはなんとなく憚られた。
なんの音もさせず、そこにいるという事実が物語っている。
「……突然、現れるよね、いつも」
私の言葉には目を細めて答える。
これも聞いたところで、というものだったのかもしれない。
先程の質問の答えは、と言う無言の圧力は無視をして、私は口を開いた。
「あなた、名前は?」
「……そんなことを聞いてどうする」
「どうするわけじゃないけど。名前くらい聞いてもいいじゃない?」
“彼”は渋い顔をして、ポツリと言った。
「ハデス」
それは私にしっかりと届いて、何故か懐かしさを覚える。
昔見たアニメ映画の悪役の名前だ。
そして記憶しているその映画はギリシア神話を基にしていたはず。
「……冥界の神様なの?」
ギリシア神話に倣うなら、ハデスとは冥府の主にして全知全能の神、ゼウスの弟。
イメージで言うならば、死神と似たようなものだと思う。
けれども“彼”……ハデスは、その顔を横にふる。
垂らしている黒髪が大きく弧を描いて揺れる様がとても綺麗。
「神などと、そんな大それたものではない」
ハデスはそう言って、ため息のように大きく息を吐いた。