世界が終わる音を聴いた

「それじゃあ何?死を司る人なんて」
「司ってなど。俺はただ、役目を終えた人々の魂を送っているだけだ」
「それと死神の何が違うの?」
「死神がお前にとってどう言うものなのか知らないが。人の命の有り様など、そうそう操れるものではない」
「……つまりあなたに、操る力はないってこと?」
「当然だ」

ハデスはそう言ったきり、口を閉じた。
あちらの世界にはあちらの世界で、色々あるんだろう。
でも……

「じゃあ、何で死ぬ日が分かるの?」

まだ続くのか、とその瞳は言っていそうだけれど、そんなことは無視する。
ハデスは諦めたのか、またその口を開いた。

「……司っている、と言うわけではないが。人は生まれた瞬間に、突発的な事項を除いては、死ぬ日が決まっている。そのタイムレコードをなぞって、俺たちは仕事をしている」

その発言には、さすがに目を丸くした。
生まれた瞬間に、自分の死に死に逝く日が決まっているだなんて。
それってまるで、自分でこの命を動かしているようなものじゃないか。
この世界に、死にに産まれてくるみたいじゃないか。

「不思議なものなのね」
「不思議なことなどない」

強く、キッパリとハデスは言う。
そして不意にどこか悲しそうな顔をして言葉を続ける。

「本当は知っているはずなんだよ、誰でも。ただ生まれたときにその記憶は忘れられていく」
「生まれる前の記憶や体内記憶のある子供もいるって……」
「そんなようなものだな。同じだよ、大きくは。その魂に刻まれているんだ」
「そう……」


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